医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律のため、下記の情報は医療関係者のみに提供しております。
美容目的で利用される
プラセンタ注射のメリット・デメリット
プラセンタは、日本で医薬成分の承認を受けるずっと以前から、生薬として用いられてきた歴史があります。古くは、秦の始皇帝なども、若返りや不老長寿として愛用したといわれています。また、江戸時代に存在した加賀の秘薬「混元丹」にもプラセンタは利用されていたそうです。
現代においては、厚生労働省に承認された効果・効能以外に、美白、保湿、細胞の増殖再生、コラーゲンの生成、抗酸化作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用、自律神経調整作用、基礎代謝向上作用、創傷回復作用、解毒作用、体質改善作用、血行促進作用、血圧調整作用、といったプラセンタに関する様々な有用性が示唆された体験談や国内外の学会発表・動物実験データなどが存在します。
こういった美容・健康効果への期待から、プラセンタ注射剤やプラセンタ含有の内服薬(補足※1) などを利用したプラセンタ療法を取り入れる方も少なくありません。 ただ、医療用医薬品であるプラセンタ注射剤(補足※1)は、通販でも購入できる一般用医薬品のプラセンタ内服薬(補足※1)などと違い、医療機関でしか入手できません。もちろん注射も医療行為ですから、医師(または看護師)から投与してもらう必要があります。(補足※1)
また、承認された疾患に対してメルスモンやラエンネックなどのプラセンタ製剤を投与するプラセンタ注射であれば健康保険が適用されますが、美容目的などで利用する場合は自由診療のため保険対象外です。
これら美容目的などで利用する場合のプラセンタ注射のメリット・デメリットを簡単にまとめると、次のようになります。
プラセンタ注射のメリット
●国内で唯一、薬事承認を得た医薬品としてヒトプラセンタを摂取できる方法であること(補足※1)
●内服薬などよりも、有効成分の吸収効率が良いと考えられること
プラセンタ注射のデメリット
●プラセンタ注射は医療行為のため、医療機関(医師または看護師)しか投与できないこと(補足※1)
●承認された治療行為(効果効能)以外が目的の場合は、保険適用外のため費用が高いこと
(補足※1)
日本の製薬会社が国内で製造販売する一般用医薬品(いわゆる市販薬)のプラセンタ内服薬は、ブタプラセンタなどが使用されています。これは、ブタプラセンタなどであれば一般用医薬品の区分でも薬事法の承認が得られたからです。(そのほか、サプリメントや健康食品といった食品区分にも配合可能です)
一方でヒトプラセンタは、感染症リスクなどの観点から、一般用医薬品よりも高度な管理が必要となる医療用医薬品(処方せん医薬品指定の医療用医薬品)でしか薬事法の承認が得られない医薬成分です(健康食品などの食品区分でも使用禁止です)。そのため、ヒトプラセンタを使用した製品を製造販売するためには、メルスモン・ラエンネック(プラセンタ注射)のように必要な承認や許認可を得たうえで製造販売する必要がありますし、今の日本ではメルスモン・ラエンネックの2製剤(注射剤)以外にそれを得た製剤はありません。
こういう背景から、日本国内では注射剤以外でヒトプラセンタを使用したものが販売されていません(規制がかかる以前は、ヒトプラセンタを使用した内服薬も販売されていたこともあります)。
しかしながら海外では、注射剤だけでなく内服薬などでもヒトプラセンタ製剤が承認され流通しているため、それらの国々から「個人輸入による自己使用」や「医療従事者による患者の治療を目的とした個人輸入」によって、自己責任で使用することは法律上可能です。ただしこの場合、あくまで無承認無許可医薬品(薬効や製造販売に関して、国内で薬事法の承認を得ていない薬)として取り扱われますし、後者の場合では薬監証明という所定の手続きやインフォームドコンセントを行うなど、処方するにあたってのルールが存在します。
ヒトプラセンタを用いた注射剤の種類と効能
現在、ヒト胎盤抽出物(以下、ヒトプラセンタ)を用いた注射剤は、国内で2製剤のみ※が医療用医薬品(処方箋薬)の承認を得ています。
ひとつはメルスモン製薬株式会社の①「メルスモン」、もうひとつは株式会社日本生物製剤の②「ラエンネック」です。
※過去には、胃・十二指腸潰瘍の治療薬としてザウエルプラセンタ(北陸製薬株式会社)、PLP(ゼリア新薬工業株式会社)というプラセンタ注射剤もありました。
この2つは、いずれもヒトプラセンタ由来の注射剤ですが、承認を得ている効果効能は異なります。それぞれ、効果効能や副作用についての概略は次のとおりです。
【1】メルスモン(プラセンタ注射)
内容量:2mL
有効成分※の含有量:100mg
※胎盤絨毛分解物の水溶性物質(ヒト胎盤由来)
メルスモンは、1956年に発売されたヒトプラセンタ由来の注射剤で、更年期障害、乳汁分泌不全に対して効果・効能が承認されています。また、効果・効能としては承認されていませんが、メルスモンを用いた動物実験レベルで、組織呼吸促進作用、創傷治療促進作用、抗疲労作用などを示した実験結果が公開されています。 副作用としては、調査症例98件のうち、19例(19.4%)に何らかの副作用がみられたとあり、主なものは注射部位の発赤・疼痛(7例)、ほかに悪寒、悪心、発熱などの症例で報告されています。
(2016/02時点での添付文書、同社ホームページより要約)
【2】ラエンネック(プラセンタ注射)
内容量:2mL
有効成分※の含有量:112mg
※胎盤酵素分解物の水溶性物質(ヒト胎盤由来)
ラエンネックは1974年の販売開始以降、50年以上にわたり利用されている、ヒト胎盤抽出物(ヒトプラセンタ)を用いた処方箋医薬品で、承認されている効能または効果は「慢性肝疾患における肝機能の改善」です。 安全性に関するデータとしては、1984年の薬効再評価で行った試験で、273例のうち、注射部位の疼痛や発疹、発熱といった副作用(またはその疑い)が発生した症例が10例(3.7%)となっています。
(2016/02時点での添付文書、関連資料より要約)
なお、プラセンタ注射の処方については、ラエンネック(成人の場合)の場合で1日に1回2ml(1アンプル)を皮下または筋肉注射で投与されます。メルスモンの場合は、1日1回、2mL(1アンプル)を皮下注射で投与することとなっています。
プラセンタ注射の安全性や副作用
安全性について
プラセンタ注射(メルスモン、ラエンネック)は、酸による加水分解滅菌や121℃での高温蒸気滅菌を行い、肝炎やエイズといった各種ウイルスの不活化(感染症対策)を施していますが、いずれのメーカーとも、未知のウイルスなどによる感染症リスクは排除しきれないとしています。ただし、これまでに感染症を引き起こしたという事例報告はないと報告しています。
副作用について
プラセンタ注射(メルスモン、ラエンネック)は、ヒト由来のタンパク・アミノ酸製剤にショック症状を引き起こす恐れがある場合は、ただちに投与を中止することとなっています。また、疼痛などの副作用報告もありますが、いずれも重篤な症状に発展したケースはないと報告されています。
その他の留意点
●ヒトプラセンタを用いたプラセンタ注射剤は特定生物由来製品のため、処方にあたり医師などから内容の事前説明をうけ、承諾する場合には同意書へのサイン(※)などが必要になります。 (※)「患者への説明」「記録の保存」
●インターネットサイトなどでは、美容や滋養を目的にしたプラセンタ点滴やカクテル注射といった静脈注射の用法を紹介しているものがありますが、メルスモンやラエンネックの添付文章にそのような用法の記載はありません。また、プラセンタの静脈注射によるショック等の副作用や持続性が下がるといったリスクを指摘する医師や研究者の意見もあります。
●ヒト胎盤エキス(プラセンタ)注射剤の使用歴がある方は、献血制限が課せられます。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/08/h0824-3.html ○その他プラセンタではないですが、ヒト骨髄、幹細胞培養液が主成分のドクターズアイテムサイトプロMDシリーズ(スキンケア用品)なども登場し、医療機関ではさまざまな高品質なスキンケア用品も登場しています。
本文記事
メディカルビューティセンター院長 橋本先生(産婦人科医師)
URL:https://m-beauty.jp/